和声法には、作編曲の初心者でも音選びに迷わないように、そして理想の響きへ最短距離でたどり着けるように、ガイドとなるルールが用意されています。
また同時に、いくつかのNG(禁則)があります。「音楽は自由なはずなのに、なぜそんな制限が必要なの?」と疑問に思うかもしれませんが、実はこれ、少年マンガの修行で手足につける「重り」のようなものなんです。
より洗練されたアレンジにするためには、わずかな音の差がわかる耳と、その違いを意図的に活かす経験が必要です。だからこそ、あえて厳しい条件の中で音を動かす練習をすることで、音に対する感覚が研ぎ澄まされていきます。
この重りを外したとき、これまでとは全く違う自由自在な音作りができるようになっていますよ!
基本ルール
それでは、具体的なルールを見ていきましょう。
基本となるのは次の8つで、縦のルールと横のルールが4つずつあります。
課題を解く際につまずいた時も、①から順番にチェックしてみてください。
↕️ 縦=配置のルール
①音域
各声部は次の楽譜の範囲内で動かします。
楽器にも音域があるので、その中で音を動かすことに慣れましょう。

②位置
お隣りの声部との距離がオクターブ以上広がらないようにします(Tenor ⇔ Bass 間だけは2オクターブまでOK)。また、Soprano が Alto より低くなったり、Tenor が Alto より高くなったりと、交叉するのを避けましょう。
③構成音
まず和音の構成音を、上3声(Bass以外)で偏らないように配置します。その上で、4声全体で以下を守るように配置します。
・根音は重複できるが、省略はできない(root:重複⭕️|省略❌)
・第3音は重複も省略もできない(3rd:重複❌|省略❌)
・第5音は重複も省略もできる(5th:重複⭕️|省略⭕️)
例えばC majorなら、上3声がひとりずつ C E G を担当します。Bassは、根音や第5音ならOKだけど、第3音だと上の誰かと重複しちゃうのでNGです。この場合は、上3声のCかGを重複させて、Eを避ける必要があります。
④配分
上3声がギュッと密集していればClosed、構成音1つ飛ばしで開離していたらOpen、Bassとの重複を避けて第3音が抜けていたらOctaveという配分になります。OpenとClosedはOctaveを経由して入れ替えられますが、直接移行はできません。
↔️ 横=進行のルール
⑤一般進行
特別な意図や理由がない限り、できるだけ近いところに移動させます。
例えばC majorからF majorにときは、共通音であるCは保留(同じ人が引き続き担当)します。半音以外の増音程進行や複音程進行はNGです。
・増音程:増2度や増4度のような長音程や完全音程がさらに半音広がった音程
・複音程:1オクターブを超える音程 1オクターブに収まる音程は単音程という
⑥限定進行
導音や7thの第7音といった限定進行音は、必ず指定の方向へ進行させます。
⑦同時進行
連続1度(ユニゾン)、連続8度(オクターブユニゾン)、連続5度はNGです。
並達1度はNGです。並達8度と並達5度は条件付きでOKです。
⑧和音進行
Tonic、Subdominant、Dominantの3機能の関係として、SからTに行くのはNGです。
和声法の公理
東京藝術大学の和声法の教科書には、これらのルールが「公理」としてAからGまでの7つのカテゴリーに分類されています。法律のような言葉で書かれているので、単純化したまとめ版を載せています。
芸大和声の原文
A.4声部全体としての配置に関する公理
A1. すべての和音を通じて、省略しうる構成音は第5音だけである。
ただし、属七、属9の根省はこれに含まれない。
A2.限定進行音を重複してはならない
*Ⅴ7の2転根省の第7音に限り、例外的に重複しうる。
この2音の進行は限定進行通りではない
A3.Ⅴ9の和音の第9音は根音より9度以上上方におかなければならない
A4.長調のⅤ9の和音の第9音は、第3音より7度以上上方におかなければならない
ただし、長調のⅤ9の和音の第9音でも、予備されていれば第3音の下方におきうる
A5.変位構成音と他の構成音とが減3度(単音程)をなしてはならない
B.進行に関する公理
B1.進行において制限される音程は次の通り
○長・短7度
○増1度を除く増音程 *例外アリ
・短調、内声でⅠ・Ⅵの和音→ⅴ度Ⅴ度の7と9の和音の進行、かつその後ⅴへの短2度上行が続く時はOK
・近親転調において、後続調の導音に達する増2度上行は、内声に限り許される。
○複音程
B2.限定進行音は、所定の限定進行(2度上行・下行)か、または保留、増1度進行のいずれかをなさなければならない。ただし、導音、第7音については除外例アリ。
・近親転調において、先行調の導音が跳躍上行する場合が有る
・2転のⅤ9根省、2転のⅤ7根省からⅠ及びⅠの1転に進行するときは、此の限りではない。
D諸和音の総括 後半を参照のこと。
B3.連結すべき2個の和音の構成音のうちに半音階的関係をなす2音が含まれる場合には、それらの2音は、ある1個の声部で増1度関係に連結しなければならない。*例外アリ
例外は以下の通り。
・後続和音が減7の和音に該当する場合
・いずれか1個の声部が増1度進行をする場合
・ⅴ度Ⅴ度[基]→属七3転 ⅴ度Ⅴ度[1転]→属七[基]の時は許容
・ナポリのⅡ[1転]→Ⅴ諸和音の連結においては、両和音の半音階的関係をなす2音(↓ⅱ、ⅱ)を同一声部におかない。
C.同時進行に関する公理
C1.連続8度、連続1度は禁ぜられる
1転同士の連結で、2個のオクターブ音程が同時保留の形であらわれる場合には良好
C2.連続5度は、後続音程が完全5度の場合に禁ぜられる*例外アリ
Ⅴに後続するⅥ[Oct.]からⅡに連結する場合に、バスと有るとの間に生ずる連続5度は許容される
C3.並逹8度、並逹5度は、外声間に生じ、かつソプラノの跳躍進行による場合に限り禁ぜられる。
先行和音→属92転(9音高位)の連結におけつ外声間の並逹5度は許容される
C4.並逹1度は禁ぜられる。
Ⅴ→Ⅰの連結において、テノールが短2度上行し、バスが完全4度上行する場合には良好
C5.第7音の2度下行と根音の3度下行による並逹8度は、いずれの声部間においても禁ぜられる。
D.予備に関する公理
D1.Ⅴ7・Ⅴ9の和音の第7音は予備を必要としない。
「Ⅴ7以外の7の和音」の第7音は予備を必要とする。
D2.「Ⅴ7の和音以外の7の和音の2転」および「3和音の2転」における低音4度(完全4度)は予備を必要とする。
(Ⅴ7も予備した方が望ましい)
*Ⅰ2-Ⅴ7におけるⅠ2の低音4度に限り、予備を必要としない。
まとめ版
公理 A(全体の配置)
• A1: 省略できる構成音は⑤だけ。
◦ 付1: 根省形はok。
◦ 付2: 修飾のときはok。
◦ 付3: 転位で還元時に良好ならok。
• A2: 限進音の重複は×。
◦ 付1: V₇・VII₇は例外。
◦ 付2: 修飾限進音は重複も消滅もok。
• A3: V₉・VII₉の⑨は①より9°以上上に置かなければ×。
• A4: DurのV₉・VII₉の⑨は③より7°以上上に置かなければ×。
◦ 付: ⑨が予備されていればok。
• A5: 変位音と他の構成音が、減3°(単音程・全音)をなしては×。
公理 B(進行),
• B1: 長・短7°、増1°以外の増音程、複音程は×。
◦ 付1: mollのI・VI→V₇・V₉のとき、内声に限りIII→IV(→V)の増2°上行がok。また、転調時、後続調のVIIに達する増2°上行は、内声にかぎりok。
◦ 付2: 下行限進音への短7°上行と上行限進音への短7°下行、また⑦(原音)→①(修飾音)の短7°下行とある修飾音から後続音への長・短7°下行はok。
◦ 付3: 転位で還元時に良好ならok。元が不良でも転位で回避されるならok。
◦ 付4: 反復進行内での増4°進行はok。
• B2: 限進音は、所定の限定進行、保留、増1°進行のいずれかでなければ×。
◦ 付1: 導音・⑦・⑨・+⑥等の限進音にはそれぞれ例外がある。
▪ [導音 II P.100 P.147 III P.139 / ⑦ I P.82 P.91 / +⑥ III P.223 / 全部に関して III P.103]
◦ 付2: 内変時のおきかえではok。
◦ 付3: 限進音を他の構成音(限進音を除く)によって修飾できる。
◦ 付4: 転位で還元時に良好ならok。
◦ 付5: 移行連結・中間反復においては、導音は限定進行しなくてもok。
• B3: 対斜は避けなければならない。
◦ 付: 後続和音が減7の和音の時、他の声部で増1°進行をしている時、V₉→V₇またはVII₉→VII₇の連結の時、-II¹→Dの連結の時、移行連結の時にはok。
公理 C(同時進行),
• C1: 連8・連1は×。
• C2: 連5は後続音程が完全5°の時×。
◦ 付1: (V₇)→VI→IIの時に生ずるアルトとバスの連5(反行)はok。
◦ 付2: Dの内変の時に生ずる連5は、減5°→完全5°でもok。
◦ 付3: 後続5°が転位によって回避されるならok。また、転位によって生ずる連5は、後続5°中に倚音が含まれればok。
• C3: 並8・並5は外声間に生じ、かつソプラノの跳躍進行による場合のみ×。
◦ 付1: →平5(Sop⑤)の時に生ずる外声間の並5はok。
◦ 付2: 内変時に生ずる並8・並5は全てok。でも並1は×。
◦ 付3: 転位で還元時に良好ならok。
• C4: 並1は×。
◦ 付: V(₇)→Iの時テノールが短2°上行バスが完全4°上行する場合のみok。
• C5: ①の2°下行と①の3°下行とによる並8はいずれの声部においても×。
◦ 付: 修飾で回避されているものでも×。
• C6: 間接平行連8は全て×。
• C7: 間接反行連8は、両外声間のみ×。
• C8: 間接平行連5は、先行5°が和音交替点にない場合と、後続5°が斜行で到達される場合のみok。
• C9: 孤立4°を後続音程とする連4は、孤立4°中に転位音を含むもののみok。
• C10: 孤立4°への並連は、孤立4°中に転位音を含む場合と、孤立4°の発音点において他声部に転位音が含まれる場合のみok。
公理 D(予備)
• D1: V₇・VII₇以外の7の和音は、⑦が予備されなくては×。
◦ 付: mollのII₇は予備されなくてもok。
• D2: V₇・VII₇以外の7の和音・3和音の[2転]における倚音4度(完4°)は予備されていなくては×。
◦ 付: I₂―VのときのI₂には予備不要。
公理 E(転位音の解決)
• E1: 前転音は常に還元解決する。
• E2: 前部原位をもつ後転音は、4通りの解決(還元・経過・保留・過還元)をする。
• E3: 前部原位をもたない後転音は、還元解決をする。
◦ 付: ↓・5にかぎり、経過解決もok。
• E4: 全転音は原則として還元解決する。
◦ 付: ↓・5にかぎり、経過解決もok。
• E5: 後変音は常に先行原位を持ち、短2°の経過解決をする。
• E6: 前変音は常に先行原位を持ち、増1°の経過解決をする。
公理 F(転位を含む配置)
• F1: 倚音・掛留音・刺繍音と、その同定音とが2°をなしては×。
• F2: 倚音・掛留音の上にその同定音を置いては×。
◦ 付: 経過的倚音は同定音が予備されるならok。
• F3: 経過音と、その異定音とが短2°をなしては×。
• F4: 下方倚音・下方掛留音とその異定音とが半音ぶつかりをしては×。
◦ 付: 刺繍的倚音は異定音が予備されるならok。
• F5: 上変音とその同定音との同時関係は、同定音が予備されている場合にかぎりok。下変音とその同定音との同時関係は全て×。
公理 G(解決進行に際しての並8)
• G: 「和音交替点の転位音」の2°下行と他声部における定位者の3°下行による並8はどの声部間でも×。
◦ 付: この並8は、解決延引、転位音の修飾によって間接的になっても×。

